2

・・・・ピピピピピピ
まだ新しい家具に包まれた部屋に、近所迷惑甚だしい大音量のアラームが鳴る。
朝だ。耳障りなアラームを切る。
あんたは朝弱いんだから、このくらいうるさい目覚まし買わないと起きられないでしょ。
口うるさい母の顔が頭に浮かぶ。よくいるお節介な母親だ。
今日は大学の入学式だ。時計を見ると針は6時30分を指している。入学式は9時からだ。昨日母親がこの時間に鳴るようにしてから帰ったのだろう。
せっかく大学から近いアパートに住むことになったのだから、そんなに急がなくてもいいだろう。もう少し眠っても大丈夫だ。
もう一度寝ようとしたその時、
ジリリリリリリリリ ジリリリリリリリ
部屋の隅から、もう一つの目覚まし時計が鳴る。こんな目覚まし、いつの間に買ってたのだろうか。
一個じゃ不安よね・・・
そんなことを母親が呟いていたことを思い出す。本当に買ってたのか。聞いていなかった。
目覚ましを止める。30分後の7時に目覚ましを設定しなおす。寝つこうとしたその時、携帯の着信音が鳴る。
まさかと思って発信者を見てみる。母親だ。
「もしもし琢磨?あんたちゃんと起きてるの?今日は入学式よ?もう一眠りしようとか考えてたんじゃないでしょうね?だめよそんなの。さっさと準備しなさい早起きはサーモンの得よ。ぎりぎりで走って行ったりなんかしたらみっともないわよ?」
こちらの返事を待つこともなく、ペラペラと母が喋りだす。本当にお節介である。ちなみに「早起きは三文の徳」であって、鮭が手に入るわけがない。
母はひとしきり喋り倒すと、もう寝るんじゃないわよと念を押して電話を切った。こちらは一言も喋るスキが無かった。

流石に起きるか。体を起こす。

すると、また携帯の着信音が鳴る。今度は母親ではないようだ。
「もーしもしもしもしもし!たっくま君!朝ですよー!隆太君ですよー!起きてるー?起きたー?朝ですよー!」
朝から鬱陶しい。こいつは川崎隆太。高校の時からの連れで、たまたま進学先が一緒だった男だ。電話口からもわかるようにウザいテンションが高い。
「朝からうるせーよ。起きてたよもう」
母のおかげなのだが、言うと馬鹿にされそうなので言わない。
「琢磨がこんな時間に起きてるなんて珍しいじゃん。さてはおかんに起こしてもらったか?まだいっしょに寝てんのか?」
そんなわけないだろう と返事をするが、起こしてもらったのは当たっている。こいつは変に鋭いところがあって嫌だ。
「起きてるならいいや、学校行く準備するから切るぞ。また学校でな。」
隆太に別れを告げる。支度を済ませ、俺は学校へ行く。

入学式、学部ごとの説明が終わり、外に出る。外には大勢の人間が紙を持って新入生を待っていた。サークルの勧誘であろう。
適当に受け取る。野球、サッカー、文学、パソコン、いろいろあるみたいだ。前にいる集団はなにやら青い棒を皆持っている。こういう勧誘活動で、一か所に固まっても非効率だと思うのだが。
前の女子がその集団から一枚ずつ紙を貰っている。渡す方も渡す方だが、なぜあの女子は同じチラシを何枚ももらっているのだろう。
これからの大学生活。サークル活動を熱心に取り組むつもりなのだろうか。
あの女子だけでない。周りにいる奴らの大概がそう考えているだろう。隆太もさっき「大学といえばサークル!可愛い女の子と親密になれるチャンス!」とか言ってたし。
俺は正直、サークルに入るつもりがない。そんなに気合い入れて頑張るつもりもない。
強制参加ではないし、したい人はすればいいと思ってる。

家に帰ると、隆太から今からお前の家行ってもいいかと電話がかかってきた。
何の用かと尋ねると、何やらこれからの相談があるらしい。
隆太の相談などろくなことではないだろうが、特にすることもないので招くことにする。
スポンサードリンク


この広告は一定期間更新がない場合に表示されます。
コンテンツの更新が行われると非表示に戻ります。
また、プレミアムユーザーになると常に非表示になります。